自然と共生する経営者に触れ、自己を見つめなおす越境の旅
第2回 北の近江越境学習プログラム モニターツアー in 湖西(高島市)
2026/03/12
2026年1月、企業の人材育成担当の皆さまをお迎えし、滋賀県・高島市を舞台に2日間のモニターツアーを開催しました。
2026年1月、企業の人材育成担当の皆さまをお迎えし、滋賀県・高島市を舞台に2日間のモニターツアーを開催しました。
琵琶湖の北西部に位置する高島市は、比良山地や琵琶湖がもたらす山と湖の恵みと共に営まれてきた暮らしが今も息づく地域です。地域で挑戦を続ける実践者の話に触れながら、参加者一人ひとりが自身の価値観を見つめ直し、「地域での学びを企業研修としてどう活かせるか」を探る場を提供しました。
モニターツアー【Day1】
水と暮らす高島市針江から見る、自然とともにある暮らし・文化・産業 (針江のんきぃふぁーむ 代表 石津大輔 氏)
ツアーは、JR湖西線新旭駅近くの古民家改装施設「TAKASHIMA BASE」から始まりました。参加者同士でテーブルを囲み、地産品を活かしたお弁当を楽しみつつ、お互いの自己紹介やツアーに対する期待を共有しました。
そして、「川端の生水(しょうず)」の文化が息づく針江地区に移り、まち歩きを楽しみながら川端(かばた)を中心とした生活文化や、湧水を活かした農の営みを伺い、地域の自然・文化・産業が密接に結びついていることを体感しました。
見学後は地域で農業を営む石津さんより、「農(暮らし)」と「農業(産業)」を分けて捉える視点や、フードテクノロジーの進化に対する考察、地域の食文化を未来へつなぐための"価値の翻訳"という考え方について学びました。
参加者からは、「食べるという行為を考える機会となった。人と共に食事をする大切さに気づいた」「価値観の削ぎ落としすぎに警鐘を鳴らす視点が新鮮だった」「暮らし・文化・産業を分断せずに捉える重要性を理解できた」といった声が寄せられ、地域資源の価値を「再編集」する発想に大きな刺激を受けていました。
地域の伝統を守り、革新につなげるリーダーから学ぶ (福井弥平商店 代表 福井毅 氏)
TAKASHIMA BASEに戻り、日本酒「萩乃露」で知られる創業275年の老舗酒蔵・福井弥平商店9代目当主の福井社長にご登壇いただき、伝統産業が直面する課題や、組織文化を未来へつなぐ取り組みについてお話を伺いました。
福井さんは、トップダウン・職能ごとの組織運営からの脱却を図り、組織文化を再構築するために職能を横断した従業員同士や経営陣との対話を重ねてこられました。また、従業員との日々の対話では、安心して働き続けられるよう将来のビジョン共有を意識し「雨垂れ石を穿つ 貴醸酒"/300"プロジェクト(※)」など、長い時間軸で事業を育てていく視点を従業員にも共有しながら、歴史を守りつつ挑戦を続ける経営姿勢をお話されました。 (※)創業300周年(2051年)まで続く醸造計画
参加者からは「保守的と思っていた酒造のイメージが変わった」「ないものではなく、あるもの探しから可能性を広げる経営手法に感銘を受けた」といった感想や、自身の視座の広がりや自社での組織経営のヒントを得られたとの声が寄せられました。
1日目を終え、同じ体験・経験を得た8社10名の参加者は、北の近江での学びを自社にどのように活かすか、地域の魅力をどのように研修に結びつけるか(地域へのフィードバック)を考える、会社の垣根を超えた1つのチームのような結束力が生まれていました。
モニターツアー【Day2】
馬と自然との関わりの中で育むマインドフルネス (TCC Japan 臨床心理士 青木 氏)
2日目は、高島市マキノ町の人気観光スポット「メタセコイア並木道」近くの、引退競争馬の観光養老牧場「メタセコイアと馬の森」で、馬との触れ合いによるマインドフルネスの実践からスタートしました。
青木さんの講義では、日々の業務や課題に対処する時の"doing(すること)モード"から、今この瞬間に意識を向け自分を正しく認識する"being(あること)モード"へと切り替えるマインドフルネスを行うことで、自他のいたわりの気持ちの向上や、心身を整える効果に繋がることや、ありのまま生きる馬との触れ合いはマインドフルネスを高める可能性があると示唆いただきました。
その後、厩舎にて馬のブラッシングや曳き馬で生身の馬と触れあった参加者は、馬が人の感情を"鏡"のように映し出す存在であることを肌で感じ、「まず自分の心身の状態を整えることの大切さ」「ありのままの自分を受け入れることが、人への思いやりにつながる」といった気づきが生まれました。
地域での新しい価値創造に触れる ― 引退競走馬とともに社会を豊かに ― (TCC Japan 代表 山本高之 氏)
続いて、会場をリノベーション倉庫施設「メタセコイアGARDEN」に移し、「メタセコイアと馬の森」を経営するTCC Japan代表の山本さんより、これまでの業界慣習にとらわれずに築かれてきた新たな価値創造の取り組みについて伺いました。
山本さんは首都圏の民間企業で働いた後に、これまで関わりのなかった競走馬の世界に入りました。外から関わり始めたからこそ持てた視点を強みに、引退競走馬をファンクラブ形式で支える仕組みや、馬と人が穏やかに過ごせるコミュニティづくり、都市と地域をつなぐ循環型プロジェクトなど、多様な挑戦が生まれています。
こうした取り組みは参加者にとって「情熱こそが新規事業成功の鍵である」という強い示唆となり、「異なる領域をつなぐところに価値が生まれる」「自分にしかできない役割を見つける」といった越境による価値創造のエッセンスを直に感じられるセッションとなりました。
半日以上のプログラムとなりましたが、参加者アンケートでは、「企業人事に携わる者として、山本さんの強い思いの源は何か、どうすれば生まれてくるのかをもっと深掘りしたかった」といったまだまだ時間が足りなかったという声や、「『新規事業創出には何よりも個人の熱意や軸がなければ成り立たない』という自身の問いが確信に変わった」といった行動変容の後押しに繋がるような、参加者の決意の声が聞かれました。
- ① リーダーの「志」や「価値観」が行動を生む 4名の登壇者に共通していたのは「強い軸」と「長期視点」。価値観の強さが行動を生み、周囲を巻き込む力になることを参加者全員が実感していました。
- ② 地域資源の価値を再編集し、翻訳する力 農、水、馬、日本酒といったテーマは企業ビジネスとは離れていても、「どう意味づけるか」によって人の行動を変える。価値を再構築する視点が、事業開発や組織変革にも通じることに気づいた参加者が多くいました。
- ③ 自分を整え、内省を深める機会に 特に馬のセッションでは、「今に戻る・自分を認める・感覚を取り戻す」といった自己理解・Well-beingにつながる学びが共有されました。
- ④ 組織開発・人材育成への応用可能性 「キャリア」「新規事業」「組織開発」「リーダーシップ」「SDGs」など、多様なテーマやキーワードと重ね合わせながら、企業の組織・個人の課題と滋賀高島での体験をどのように結びつけられそうか、具体的なアイディアについて参加者同士で活発に意見交換されていました。
北の近江での企業研修の可能性
グループワークでは、以下のような活発な意見があがりました。
実現できそうな研修案- キャリアプログラム: 森 × 馬 × マインドフルネスで"自分に戻る"体験/中堅〜シニアのキャリア再構築
- 新規事業・価値創造: 地域資源を素材にアイデア発想/制約を価値に変えるワークショップ/異領域をつなぐ越境イノベーション演習
- 組織開発・リーダーシップ: リーダーの価値観を探るセッション/相互理解・チームビルディング
- 若手・新入社員研修: 五感を使う原体験学習/Well-being を育むプログラム
- 地域共創・SDGs・リトリート系: 自然への没入を通じたデジタルデトックス/地域課題 × 越境学習/地域貢献活動との組み合わせ
また、雪など季節リスクへの配慮や、継続学習に向けたフォローアップの必要性など、今後検討すべき論点も挙がりました。
編集後記 ― ともに体験・経験を積んだ仲間の大切さ ―
ツアー当日は、湖西の山間部では積雪が40cm以上に達する大雪で、電車の遅れや当初予定していたプログラムの変更など、参加者/事務局ともに平時と異なる状況下で地域との交流を進めましたが、天候をものともせず首都圏からご参加いただき、普段と異なる景色を楽しみながら、脱落することなく皆、学びの旅を無事終えることができました。
苦楽を共にし、同じ経験・体験を得た仲間として、参加者同士がこの旅だけで終わらない繋がりが芽生えたと感じました。ご協力ありがとうございました。
共創会議レポート





