北の近江から始まる「三方よし」の共創
企業研修誘致に向けた新たな一歩
2025/11/06
企業研修の受入れが盛んな滋賀県北部地域(長浜市、高島市、米原市)へ:第1回共創会議レポート
2025年8月25日(月)、滋賀県長浜市の北ビワコホテルグラツィエにて、「企業研修の受入れが盛んな県北部地域」のブランディングに向けた第1回共創会議が開催されました。この会は、県北部地域の特性や魅力を活かしたさらなる振興を目指す「北の近江振興プロジェクト」の一環である、地域ならではの研修コンテンツを構築し、企業研修の誘致を通じて地域の賑わい創出を目指す「企業研修誘致コーディネート業務」の取組として、滋賀県が主催しました。キックオフとなる本会議には、県北部地域の企業研修の受入れに関心を寄せる多様な事業者、行政関係者、講師、事務局を合わせ、総勢68名が集まり、地域全体の熱意を感じるスタートとなりました。
この記事では、会議で共有された先進事例から得られた示唆や、参加者全員で探求した地域資源の可能性についてご報告します。この活動が、皆様の事業と地域全体の発展に繋がる「新しい共創」の機会となることを願っています。
【第1章】なぜ今、「企業研修誘致」なのか
滋賀県は、伊藤忠商事株式会社が長年、創業地である滋賀県、特に高島市を中心とする北部地域で新入社員研修を実施していることを一つのきっかけとして、企業研修の誘致活動を開始しました。
伊藤忠商事の新入社員から「滋賀県北部地域での企業研修を売り出し、支えてはどうか」という提案を受けたことも、この取り組みの着想につながったと述べています。
本事業の目的は、企業研修という「地域と密接した深い学び」を伴う活動を通じて、地域にとっての「関係人口」の拡大に繋げることです。企業研修では、一定期間滞在し、地域課題を掘り下げて検討するプログラムも多く、これは滋賀県北部が持つ自然や文化、そして直面する課題と照らしても非常に合致していると考えられます。
企業研修の受入れによって、地域には以下のメリットが期待されます。
- 地域課題の克服への貢献: 外部の視点を取り入れることで、地域が持つ課題解決のアイデアやヒントが得られる。
- 地域経済の活性化: 宿泊、研修会議所、体験コンテンツなどの提供を通じて経済的な賑わいが創出される。
- 地域の魅力再認識とファンづくり: 地域外の若者やビジネスパーソンとの交流を通じて、地域住民が自身の持つ資源の価値を再認識し、地域のファン・支援者を増やすことができる。
この会議では、企業が求める研修の価値を具体的に理解し、地域の事業者が共同でプログラムを提供するための体制を整えることを目指しています。
【第2章】先進事例から学ぶ「三方よし」と「関係性のデザイン」
会議のハイライトは、企業研修の事例紹介と、地域共創のノウハウ共有にありました。
講演1:伊藤忠商事株式会社
近江商人をルーツとし、同社の企業理念である「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)を体現するための新入社員研修の取り組みが紹介されました。滋賀県は伊藤忠商事の創業地であり、この研修は「滋賀県との協業と貢献から得る学び」を目的としています。
- 研修内容の具体例: 総合職の新入社員約130名が24チームに分かれ、高島市を拠点に5日間滞在。高島市内の農場(みなくちファーム、森牧場など)や森林公園(くつきの森など)など8箇所の受入先でフィールドワークを実施。
- 実践的な学び: 新入社員は地域課題のヒアリングや体験を通じてリサーチを行い、「琵琶湖と共生する自然豊かな滋賀県における持続可能な地域づくり」をテーマに、最終的に滋賀県知事や伊藤忠商事の副社長(CAO)へ課題解決策を提案します。
- 提案の具体性: 提案内容は単なるアイデアに留まらず、伊藤忠グループのリソース活用や事業としての採算性まで具体的に掘り下げられています。
- 地域へのメリット: 受入事業者からは、新入社員の農作業などの手伝いが「貴重な労働力としても助かった」という声や、「外部の若者との交流や新しい視点での事業提案が今後の活動のヒントになった」という感想が寄せられました。
この事例は、研修が単なる座学ではなく、地域・企業・参加者の三者全てに有益な「共創型=三方よしの研修」となる可能性を示しました。
講演2:丹後リビングラボ(株式会社インフォバーンより)
同社からは、京都府京丹後市で展開されている「丹後リビングラボ」の事例が紹介されました。これは、ワーケーションプログラムの開発と、地域内のリモートワーク環境の充実を図り、都市部企業・人材の誘致や、交流人口・関係人口(企業)の拡大を目的とした5カ年事業です。
- 成功の鍵:素材の再発見と可視化
- 外部から人を呼び込むためには、まず地域に存在する「人」「産業課題」「体験プログラム」「学びの機会」といったポテンシャルを感じてもらえる素材を再発見し、それを「外部の企業」に理解しやすいように編み直すことが不可欠であると強調されました。
- 京丹後には織物業や機械金属業の一大集積地があり、また、U・Iターンした20〜30代の若者たち(ローカルイノベーター)がユニークな事業を立ち上げていること(例:有機農業、海洋ゴミ問題への取り組みなど)が新たな魅力となっているとのことです。
- コンシェルジュ的な対応:
- 外部企業に対しては、ウェブサイトやSNSによる発信をはじめ、都市部や現地での各種イベント、モニターツアーなどを通じて「接点づくり」から「関係性」へと深化させる努力が重要です。
- 特に「旅前・旅中・旅後」を通じた「コンシェルジュ的」な手厚い対応と「期待値調整」に努めることで、リピート企業を増やすことにつながると解説されました。
- 地域内の連携(コンソーシアム):
- 地域内では、観光業だけでなく、金融やデザイン会社など多様な事業者(のべ40社)が参加するコンソーシアムを構築し、交流会や外部企業との協働を通じて相互理解を深め、新たなコラボレーションを促進しています。
- 第三者である外部企業からの「生の声」は、地域が当たり前と思っていることの潜在的な価値に気づかせ、取り組みへの意欲を加速させる効果があります。
丹後リビングラボの事例は、滋賀県北部が目指す「ゆるやかな地域課題解決ネットワーク」を構築するための具体的なステップと、地域内の連携の重要性を示唆しました。
【第3章】地域資源の可能性を探るワークショップ
講演後、参加者はグループに分かれ、「企業に対して、どんな地域の魅力(体験や学び)を提供できそうか?」をテーマに活発なワークショップを実施しました。
短い時間ながら、長浜市、高島市、米原市の各地域が持つポテンシャルが活発に議論・発掘され、多くの具体的なアイデアが共有されました。
主要なアウトプットは以下の4つのカテゴリーに集約されました。
1. 「滋賀の自然資源」を活かした体験
ほぼすべてのグループで、琵琶湖、森林、里山、伊吹山などの豊かな自然資源を活用したアイデアが挙げられました。
- 非日常・リトリート型: 農林漁業体験、SUP・カヤック、湖畔サウナ、キャンプ、星空観察。
- 地域個性: 伊吹山登山、旧街道歩き、琵琶湖一周ドライブ、水辺の生活文化を学ぶ「かばたの見学」。
2. 地元住民や企業、地域リーダーとの交流プログラム
地域課題解決や共創に焦点を当てた、深い学びの機会が求められています。
- 課題解決・共創: 地域課題ディスカッション、地域課題から企業の価値づくり、地域プレイヤー(ローカルリーダー)から学ぶプログラム。
- 産業・歴史: 近江商人の学び(三方よしの精神)、製造業の魅力体験(「水」と「機械」と「人」で発展した産業)、ヤンマー創業の地で創業の想いを学ぶ体験。
3. 心身のリフレッシュとウェルビーイング
単なる研修ではなく、心身の健康や内省に重点を置いたプログラムへの需要が見られました。
- リトリート要素: 森林セラピー、自然の中でのヨガ体験、デジタルデトックス、発酵文化(食・歴史・環境)の学び。
- リフレッシュ: テントサウナで琵琶湖体験、湖畔での食事、焚火を囲みながらの対話。
4. 滋賀ならではの持続可能な社会づくり
SDGsやサステナビリティといった世界的潮流を意識した、未来志向のアイデアも多く生まれました。
- 環境教育: 琵琶湖の柳の成長速度と薪生活によるCO2の循環学習、伊吹山植生保護、漁業/林業体験を通じた一次産業の担い手を知る。
- 伝統継承: 高島ちぢみで繊維業を盛上げる、伝統食品づくり、文化財維持管理体験。
これらのアイデアは、滋賀県北部地域が「環境型」と「コンテンツ型」の両方の要素を兼ね備え、企業研修の場として極めて高いポテンシャルを持っていることを証明しました。
【第4章】新たな一歩を踏み出すために
会議後のアンケート結果からも、参加者のプロジェクト推進に向けた前向きな成果と高い期待が確認されました。
- 意識の変化: 参加者の多くが、伊藤忠商事や丹後リビングラボの事例から、企業が求める研修の価値や地域での可能性について理解を深めることができました。
- 新しいつながり: 普段交流のない他市間の事業者や、これまで挨拶をしたことがなかった方との接点が生まれ、「新しいつながりが得られた」という回答が多く、地域内連携の大きな一歩となりました。
- 高い参画意欲: 第2回共創会議(地域内の事業者同士での視察や体験を予定)について、多くの事業者が「ぜひ受け入れたい」(16件)または「都合がつけば受け入れたい」(4件)と回答し、積極的な参画意欲が示されました。
一方で、今後は「県として滋賀北部をどうしたいのか、何がしたいのか、もっと県が目指すビジョンを語って欲しかった」という声や、「研修を受け入れる体制が整っていない不安」や「人手不足の中での継続的な受け入れへの不安」といった課題も寄せられました。
これらの課題を克服するためには、具体的な「テストケース」の実施や、先行事業者(例えば、日常的に受け入れ経験を持つ事業者との地域内でのノウハウ共有が重要となります。
この活動は、県北部地域が持つ豊かな資源と、地域の皆様の強い想いが掛け合わされることで実を結びます。第2回共創会議では、参加事業者同士が互いの施設を視察・体験するプログラムを予定しています。互いのポテンシャルを肌で感じ、具体的な研修プログラムへと昇華させていく段階へと進みます。
この活動は、滋賀県北部から始まる、未来の「三方よし」の実験です。
地域の力を一つにし、企業と地域が深く繋がり、共鳴しあう新しいビジネスモデルを共に創造していきましょう。皆様の積極的な参画とご協力を心よりお待ちしております。
第1回共創会議 開催概要
- 日時: 令和7年(2025年)8月25日(月) 13時30分~16時30分
- 場所: 北ビワコホテルグラツィエ 2階アレーナ(長浜市港町4-17)
- 主催: 滋賀県
- 内容: 県北部地域の企業研修事例や受け入れメリットの共有(伊藤忠商事様、丹後リビングラボ様)、研修企画と事業者同士の交流のためのグループワークを実施。
今後の予定: 共創会議は地域内の事業者同士での視察や体験を11月と翌年1月に開催予定です。また、同じく11月には首都圏企業を県北部地域に招待して企業研修のニーズを共に探る、モニターツアーの開催も予定しています。
共創会議レポート





