「1万人が100回来る街」へ
企業研修とまちづくりをつなぐ熱海視察研修
2026/07/06
2026年7月6日、滋賀県北部地域で企業研修の受け入れに関わる地域事業者の皆さまとともに、企業研修誘致の先進地である静岡県熱海市を訪問しました。
2026年7月6日、滋賀県北部地域で企業研修の受け入れに関わる地域事業者の皆さまとともに、企業研修誘致の先進地である静岡県熱海市を訪問しました。
滋賀県では、長浜市・高島市・米原市を舞台に、地域資源を生かした企業研修の誘致と受入れ体制づくりを進めています。地域事業者の関心や機運が高まりつつある一方、「企業へどのように提案するのか」「地域の体験をどのように学びへ変えるのか」「地域内でどのような体制をつくるのか」といった、実装に向けた課題も見えてきました。
今回の視察では、2006年に行政が財政危機宣言を出し、長年地域再生の取り組みが進んできている熱海で、民間企業としてまちづくりや企業研修の分野で活動を行う株式会社Gensen&Coを訪問。まち歩きや講話、地域課題を題材とした研修体験を通じて、企業研修を「誘致・設計・実施」するための考え方や、地域と企業が持続的な関係を築くための工夫を学びました。
午前の部|熱海のまちづくりを現地で学ぶ
「100万人が1回来る街」から、「1万人が100回来る街」へ (株式会社Gensen&Co 代表取締役 佐々木梨華 氏)
視察は、熱海銀座商店街にあるコワーキングスペース「naedocoはなれ」から始まりました。株式会社Gensen&Co代表取締役の佐々木梨華氏より、熱海が抱えてきた地域課題と、熱海市、特に熱海銀座エリアの15年以上にわたる地域再生の歩みについてお話を伺いました。
かつて熱海は、団体旅行の減少とともに宿泊客が大きく減少し、商店街の衰退や空き家・空き店舗の増加、人口減少など、複数の課題に直面していました。観光産業に携わる人が多い熱海では、観光の衰退は産業だけでなく、雇用や暮らし、地域コミュニティ全体に関わる問題でもありました。
そこで、2011年から熱海の中心市街地でまちづくりに取り組む株式会社machimori(Gensen&Coの前身となる企業)が掲げたのが、「100万人が1回来る街より、1万人が100回来る街へ」というビジョンです。観光客の数を増やすだけでなく、何度も訪れ、地域の人と関係を育む人を増やすことを目指しました。
空き店舗をゲストハウスや飲食店、コワーキングスペースへと再生するリノベーションまちづくりを、小さく、民間主導で積み重ねてきた熱海。その結果、熱海銀座商店街では新たな出店や雇用が生まれ、人と人とのつながりも再び育ち始めています。
街全体を学びのフィールドとして捉える
講話の後は、熱海銀座商店街を実際に歩きながら、まちづくりの工夫を体感しました。
特に印象的だったのは、宿泊施設の中ですべてを完結させるのではなく、宿泊客を地域へ送り出す設計です。machimoriが運営するゲストハウスでは、あえて温泉や充実した食事設備を設けず、宿泊客が商店街の飲食店や日帰り温泉、干物店などを利用するよう促しています。
施設単体で売上を最大化するのではなく、「街全体を一つの宿」と捉え、人と経済が地域全体を循環する仕組みをつくっているのです。
参加者は、街並みや店舗、人々の営みを実際に見ながら、地域資源とは必ずしも特別な観光施設だけを指すものではなく、地域で暮らす人の考え方や挑戦、日常の中にある関係性そのものも、企業にとって価値ある学びになることを体感しました。
午後の部|企業研修事業の実践知を学ぶ
企業研修事業を成立させるための実践知
午後は再び、佐々木氏より企業研修事業の立ち上げについてや、現在の事業へと成長させてきた過程について学びました。
事業を始めた当初は、「商品がない」「顧客がいない」「専任メンバーもいない」という状態だったといいます。そうした中で、まず明確にしたのは「誰を顧客とするのか」という点でした。地域事業を持続可能にするため、一定の研修予算があり、継続的な関係構築が期待できる大企業を主な対象に設定。一方で、企業の規模や意思決定者によってニーズや提案方法が異なるため、営業やプログラム内容も相手に応じて設計してきました。
営業の中で繰り返し問われたのが、「なぜ熱海で研修を行う必要があるのか」という問いです。その答えは、Gensen&Coが単なる研修会社ではなく、地域課題に実際に向き合う「まちづくり会社」であることでした。参加者は現場に入り、地域の人へ話を聞き、思い込みと現実の違いに気づきながら、課題を考えます。研修のために用意された架空のケースではなく、現在進行形の地域課題を教材とすることが、熱海ならではの学びを生み出しています。
企業の学びと、地域への価値還元を両立する運営
佐々木氏が特に強調していたのが、「地域を消費しない」という考え方です。
企業研修では、地域住民へのインタビューや現場訪問など、多くの協力が必要になります。しかし、外部からの視察や研修が繰り返されることで、地域側に負担や疲弊が生じることもあります。Gensen&Coでは、企業から得た利益を地域づくりへ還元するとともに、研修協力者を単なる「話し手」や「講師」として扱うのではなく、共に地域をつくる仲間として関係を築いています。
地域コーディネーターとして活動する佐々木氏およびGensen&Coのスタッフは、当日の案内だけでなく、地域住民との信頼関係づくり、事前ヒアリング、研修後のフォローまでを担います。協力者の活動内容だけでなく、その人が大切にしている価値観や今後挑戦したいことまで理解したうえで、企業との出会いを設計しています。
また、地域で新たな活動を始めた人や店舗を日頃から探し、多様な地域プレイヤーと関係を築くことも、研修の質を保つための重要な仕事であることが紹介されました。
地域課題を題材にした「フィールドワーク」を実体験
最後に、企業向けに提供している研修の一部を、参加者自身が体験しました。
参加者は熱海の街へ出て、地域で暮らす人へのインタビューや現場観察を実施。事前に抱いていた仮説と、現場で聞いた事実を照らし合わせながら、地域課題を捉え直しました。
参加者からは、「交通面で困っているのではないかと想像していたが、実際には地域内で助け合いながら、それぞれが工夫して暮らしていた」といった気づきが共有されました。
課題を外部の視点だけで決めつけるのではなく、現場の声を聞き、「その人にとって本当に望ましい状態とは何か」を考え続けること。すぐに答えを出すのではなく、問いを更新しながら仮説を検証するプロセスそのものが、地域をフィールドとする企業研修の価値であることを体感しました。
参加者の振り返りと、滋賀県北部地域での展開に向けて
参加者の振り返りから見えた3つの学び
- ① 現場で対話することで、思い込みが覆される 参加者からは、街歩きや地域住民へのインタビューを通じて、事前に想像していた地域課題と、実際の暮らしには違いがあることに気づいたという声が挙がりました。地域課題を外から一方的に決めるのではなく、そこで暮らす人の声を聞き、その人にとっての幸せや望ましい状態まで考えることの大切さが共有されました。
- ② 地域づくりにも、営業と事業設計が必要 熱海の事例からは、想いや地域資源だけでは事業は継続できず、明確な顧客設定、提案、営業活動、収益モデルづくりが不可欠であることを学びました。参加者からは、佐々木氏の行動量や企業への営業姿勢が印象に残ったという声もあり、滋賀でも地域資源を企業向けに翻訳し、継続的に提案する機能が必要であるとの認識が深まりました。
- ③ 一人に依存せず、地域全体で続ける仕組みをつくる 地域コーディネーターや副業人材など、多様な人材が役割を分担する運営体制も、多くの参加者にとって重要な学びとなりました。一方で、事業を牽引する個人への依存や後継者育成への課題も挙げられました。地域の人や施設、行政、企業、研修会社がそれぞれの強みを持ち寄り、持続可能なチームをつくる必要性が確認されました。
滋賀県北部地域での展開に向けて
視察後の参加者からは、滋賀県北部地域での企業研修に向けて、次のような可能性が挙げられました。
- 自然体験や宿泊施設に、対話・内省・課題発見のプロセスを加える
- 地域資源を企業の人材育成テーマへ翻訳し、複数の体験を組み合わせる
- 企業研修の参加者が、観光や事業連携を通じて地域へ再訪する流れをつくる
単発の体験プログラムをつくるのではなく、企業との出会いをきっかけに、地域との継続的な関係を育てていくこと。そのための営業、研修設計、地域調整を担う体制づくりが、今後の重要なテーマとして見えてきました。
おわりに
今回の熱海視察では、企業研修は単なる研修プログラムではなく、地域資源を企業の学びへと編集し、人と地域の新たな関係を育む「まちづくり」の一つであることを学びました。また、地域資源の価値を企業へ伝えるための言語化や営業、地域内での連携体制づくりなど、滋賀県北部地域で企業研修を実装していくための具体的なヒントを得る機会となりました。今回の学びを今後の共創会議や実践へとつなげながら、地域事業者・行政・企業が連携し、県北部地域ならではの企業研修づくりに取り組んでまいります。
共創会議レポート





